旅の前に読みたい海外文学・小説おすすめ一覧【国別】|行き先の文化と空気がわかる名作

学び
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海外文学を読んでいると、その国の街並みや食卓、人々が当たり前に共有している記憶が、少しずつ身近になっていきます。

海外旅行の予定がある人にとっては、ガイドブックではわからない「その国の前提」を知る手がかりになります。

旅の予定がない人にとっても、一冊ごとに知らない国を訪ねるような読書になるはずです。

この記事では、その国や地域の文化と空気が伝わる名作を、アジア・ヨーロッパ・南北アメリカ・中東・アフリカ・オセアニアの地域別、さらに70以上の国と地域ごとに整理しました。

旅の行き先が決まったとき、また海外文学の次に読む一冊を探したいときに、ぜひ参考にしてみてください。

また現在は渡航が困難な国の作品も含んでいるため、旅行の際には最新の公式情報(外務省の海外安全ホームページ)を確認してください。

アジアの海外文学・小説

日本から近く、短期旅行でも訪れやすい地域です。

近年は韓国や台湾の現代文学の翻訳が増え、手に取りやすくなっています。

近現代の歴史と深く結びついた作品も多く、現地で目にする記念碑や街並みの意味がわかりやすくなります。

東アジアの小説

韓国、台湾、中国、香港の作品を紹介します。

現代の暮らしを描いた読みやすい作品と、近現代史を背景にした重厚な作品の両方がそろっています。

『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ|韓国

ソウルで暮らす一人の女性の半生を、記録のような淡々とした文体でたどる小説です。進学、就職、結婚、出産といった場面ごとに、家族や職場で当たり前とされてきた価値観が浮かび上がります。分量が少なく1日で読み切れるので、韓国文学の入り口にも、ソウル旅行前の一冊にも向いています。

『少年が来る』ハン・ガン|韓国

1980年5月、韓国南西部の都市・光州で起きた民主化運動とその鎮圧を描いた作品です。事件に関わった人々の視点が章ごとに入れ替わり、出来事の傷が何十年も続いていく様子が描かれます。作者は2024年にノーベル文学賞を受賞しました。暴力の描写があり内容は重めですが、韓国の近現代史を知るうえで欠かせない一冊です。

『菜食主義者』ハン・ガン|韓国

ある日突然肉を食べることをやめた女性と、それに戸惑う夫や家族を、三人の視点から描いた連作小説です。2016年にブッカー国際賞を受賞し、作者の名を世界に広めました。短めの作品ですが、家族の圧力や身体の自由をめぐる問いは鋭く、韓国文学の奥行きを知りたい人に向いています。

『アーモンド』ソン・ウォンピョン|韓国

感情を感じ取りにくい少年が、祖母と母が営む古本屋で育ち、ある事件をきっかけに周囲の人々と関わっていく物語です。日本でも本屋大賞の翻訳小説部門で1位になりました。文章は平易で短い章が続くため、移動中にも読み進めやすく、現代韓国の若い世代の孤独や家族のかたちに触れられます。

『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』ファン・ボルム|韓国

ソウルの住宅街に小さな書店を開いた女性と、そこに集まる人々の日常を描いた物語です。大きな事件は起こりませんが、働き方や燃え尽きに悩む現代韓国の人々の姿が穏やかに描かれます。疲れているときにも読みやすく、ソウルで独立系書店やカフェを巡りたい人と相性のよい一冊です。

『わたしたちが光の速さで進めないなら』キム・チョヨプ|韓国

韓国でベストセラーになった若手作家によるSF短編集です。宇宙や未来を舞台にしながら、別れや差別、他者へのケアといった身近なテーマが描かれます。科学的な説明は控えめでSFに慣れていない人でも読みやすく、韓国文学の幅の広さを知るのに向いています。

『歩道橋の魔術師』呉明益|台湾

かつて台北にあった巨大な商業施設「中華商場」を舞台にした連作短編集です。そこで育った子どもたちが、歩道橋の上にいた不思議な魔術師との思い出を語ります。今はもう存在しない場所を通して、台北という街の変化と懐かしさが伝わってきます。短編ごとに区切れるので、台北旅行の行き帰りに少しずつ読むのにちょうどよい作品です。

『自転車泥棒』呉明益|台湾

父の失踪とともに消えた古い自転車を探す小説家が、持ち主たちをたどるうちに、戦時中の東南アジアの戦場や動物園の象をめぐる記憶へと導かれていく長編です。英語版はブッカー国際賞の候補にもなりました。台湾が日本統治時代から背負ってきた歴史を、自転車という身近なものを通して知ることができます。

『台湾漫遊鉄道のふたり』楊双子|台湾

日本統治時代の1938年、台湾に招かれた日本人女性作家と、通訳を務める台湾人女性が鉄道で島を縦断する物語です。各地の料理が章ごとに登場し、食を通して二人の関係と時代の複雑さが描かれます。英語版は全米図書賞の翻訳文学部門を受賞しました。読みやすく、台湾の鉄道旅や食べ歩きを予定している人に特におすすめです。

『阿Q正伝』魯迅|中国

辛亥革命前後の農村で、日雇いの男・阿Qが、どんな負けも都合よく「精神的な勝利」に置き換えてしまう姿を描いた中国近代文学の代表作です。短い作品で、ほかの短編とまとめて一冊になった文庫が多く出ています。近代中国が抱えていた問題を知る入り口として、また魯迅の故郷・紹興を訪れる前にも読んでおきたい一冊です。

『活きる』余華|中国

裕福な家に生まれながら財産を失った男性が、国共内戦、大躍進、文化大革命と続く激動の時代を、家族とともに生き抜く物語です。次々と起こる出来事を、語り手は大げさに嘆くことなく語ります。文章は平易ですがつらい場面も多く、20世紀の歴史が庶民の暮らしにどう影響したかを知りたい人に向いています。

『赤い高粱』莫言|中国

日中戦争下の山東省の農村を舞台に、高粱酒をつくる一族と抗日の戦いを、孫の世代の語りで描いた作品です。チャン・イーモウ監督の映画『紅いコーリャン』の原作で、作者は2012年にノーベル文学賞を受賞しました。暴力の描写もある力強い作品で、中国北部の農村の土の匂いが伝わってきます。

『三体』劉慈欣|中国

文化大革命の時代に父を失った女性科学者の選択が、のちに人類と異星文明の接触へとつながっていくSF長編です。アジア圏の作品として初めてヒューゴー賞を受賞しました。冒頭の文化大革命の場面や現代中国の研究者たちの描写から、社会の空気が伝わってきます。全3部作で長いため、長期旅行や長距離フライトでじっくり読みたい人に向いています。

『13・67』陳浩基|香港

香港警察の名刑事クワンが関わった事件を、2013年から1967年へと時間をさかのぼる6つの中編で描いたミステリーです。謎解きとしての面白さに加え、返還前後の香港社会と警察の歩みが浮かび上がります。読み進めるほど街の過去が見えてくる構成で、香港旅行の前に読むと、高層ビルの間に残る古い街並みの見え方が変わります。

東南アジアの小説

ベトナム、カンボジア、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ミャンマーの作品を紹介します。

リゾートのイメージが強い地域ですが、植民地支配や戦争の歴史を抱えた国が多くあります。

日本語訳の点数は多くないため、品切れの場合は電子書籍や図書館や中古販売もあわせて探してください。

『暗夜/戦争の悲しみ』バオ・ニン|ベトナム

『戦争の悲しみ』は北ベトナム軍の兵士として戦争を生き延びた男性が、戦場の記憶と戦後のハノイでの暮らしを行き来しながら語る小説です。作者自身も従軍経験を持ちます。日本ではアメリカ側の視点で語られることの多いベトナム戦争を、ベトナムの人の目線から知ることができます。重めの内容ですが、戦争関連の博物館を訪れる予定があるなら先に読んでおきたい一冊です。

『おとなしいアメリカ人』グレアム・グリーン|ベトナム

1950年代、フランスからの独立戦争が続くサイゴンを舞台に、英国人の記者と理想に燃える若いアメリカ人が、一人のベトナム人女性をめぐって対立する物語です。のちのアメリカの介入を予見したような内容で知られています。物語の中心となるカティナ通りは現在のドンコイ通りにあたり、ホーチミン市の街歩きと重ねて読めます。

『愛人 ラマン』マルグリット・デュラス|ベトナム

1920〜30年代のフランス領インドシナで、メコン川の渡し船で出会った15歳のフランス人少女と、裕福な中国人青年との関係を描いた自伝的小説です。ゴンクール賞を受賞し、映画化もされました。短い作品ですが文体は独特で、湿った熱気と植民地社会の階層が伝わってきます。ホーチミン市やメコンデルタを訪れる前に向いています。

『最初に父が殺された』ルオン・ウン|カンボジア

1975年、ポル・ポト率いるクメール・ルージュがプノンペンを制圧し、5歳だった作者の家族が農村へ強制移住させられてからの体験を綴った回想録です。父や家族を次々と失いながら、少女兵として生き延びた日々が子どもの目線で語られます。2017年にはアンジェリーナ・ジョリー監督で映画化されました。内容は非常に重いものの、文章は平易です。プノンペンのトゥール・スレン虐殺博物館やキリング・フィールドを訪れる前に読むと、展示の意味を受け止めやすくなります。日本語訳は入手しにくい場合があるため、図書館も活用してください。

『観光』ラッタウット・ラープチャルーンサップ|タイ

タイ系アメリカ人の作家が、タイを舞台に書いた短編集です。観光客が行き交うビーチの町で暮らす少年、視力を失いつつある母と最後の旅に出る息子など、観光地の裏側で生きる人々の日常が描かれます。読みやすく短期旅行の前でも無理なく読めるうえ、自分が訪れる場所を少し違う目で見られるようになります。

『夕霧花園』タン・トゥアンエン|マレーシア

日本軍占領下の収容所を生き延びたマレーシアの女性判事ユンリンが、戦後、高原地帯キャメロン・ハイランドで日本庭園をつくる元宮廷庭師・有朋に弟子入りする物語です。ブッカー賞の最終候補となり、阿部寛の出演で映画化もされました。静かな文章の中に、戦争の記憶と、許すことの難しさが描かれます。日本人にとっては向き合うのに覚悟がいる内容ですが、紅茶畑が広がる高原の霧の描写は美しく、キャメロン・ハイランドを訪れる旅と重ねて読みたい一冊です。

『人間の大地』プラムディヤ・アナンタ・トゥール|インドネシア

19世紀末、オランダ植民地時代のジャワ島を舞台に、現地の青年ミンケと、オランダ人男性の現地妻として生きる女性とその娘との関わりを描いた長編です。インドネシアを代表する作家による四部作の第1部にあたります。植民地社会の身分制度が丁寧に描かれ、読みごたえは十分。東南アジアの歴史に関心がある人や長期旅行に向いています。

『ノリ・メ・タンヘレ』ホセ・リサール|フィリピン

19世紀後半、スペイン統治下のフィリピンを舞台に、ヨーロッパ留学から帰国した青年イバラが、修道士や植民地官僚の横暴に直面していく長編です。作者のリサールは植民地支配を批判したこの作品などを理由に処刑され、現在はフィリピンの国民的英雄とされています。長く、日本語訳も入手しにくい場合があるため、図書館も活用してください。マニラの城壁都市イントラムロスには、リサールが処刑前に収監されたサンチャゴ要塞が残っており、訪れる前に読むと見学の意味が深まります。

『ガラスの宮殿』アミタヴ・ゴーシュ|ミャンマー

1885年、英国軍によるマンダレー王宮の制圧から始まり、ビルマ、インド、マラヤを舞台に三世代の家族の運命を描いたインド人作家による大河小説です。長い作品ですが物語性が高く、英国の植民地支配が東南アジアと南アジアをどう結びつけたかがわかります。ミャンマーは地域により危険情報が出ているため、渡航を考える場合は外務省の海外安全ホームページを必ず確認してください。

南アジアの小説

インド、スリランカ、パキスタン、アフガニスタンの作品を紹介します。宗教や身分の慣習、家族のあり方が日本と大きく異なる地域なので、小説で生活の空気に触れておくと理解が深まります。

『停電の夜に』ジュンパ・ラヒリ|インド

インドとアメリカを舞台に、インド系の人々の日常を描いたピュリツァー賞受賞の短編集です。夫婦のすれ違い、異国で暮らす家族、観光ガイドと旅行者の会話など、静かな場面の中にインドの家族観や食習慣、移民の感覚がにじみます。途中で止めても続けやすく、インド文学の最初の一冊に向いています。

『小さきものたちの神』アルンダティ・ロイ|インド

南インド・ケーララ州の町を舞台に、双子の兄妹と家族に起きた悲劇を描いたブッカー賞受賞作です。湿った熱帯の空気や川の風景が濃く描かれ、身分制度や宗教、家族の体面が人の人生をどう縛るかが伝わってきます。言葉遊びや時系列の行き来がある独特の文体で、南インドを訪れる旅の前に読むと風景の描写が実感を伴います。

『真夜中の子供たち』サルマン・ラシュディ|インド

1947年8月15日の真夜中、インド独立の瞬間に生まれた男性が、自らの人生と独立後のインドの歴史を重ねて語る長編です。ブッカー賞の歴代受賞作の中から最高傑作に選ばれたこともあります。脱線の多い語りで長く、読みごたえは重めですが、インドという国の多様さと混沌をまるごと味わいたい文学好きにおすすめです。

『グローバリズム出づる処の殺人者より』アラヴィンド・アディガ|インド

貧しい村に生まれた青年が、富裕層の運転手として都市に出て、やがてある決断に至るまでを本人の語りで描くブッカー賞受賞作です。皮肉の効いた勢いのある文章で読み進めやすく、デリーなど大都市の急成長と格差、使用人と雇い主の関係など、現代インドの現実を知りたい人に向いています。

『シャンタラム』グレゴリー・デイヴィッド・ロバーツ|インド

オーストラリアの刑務所を脱獄した男がボンベイ(現在のムンバイ)に流れ着き、スラムで暮らし、やがて裏社会に関わっていく長編です。作者自身の経験をもとにしたと言われています。文庫で複数巻に及ぶ長さですが、物語の勢いがあり、ムンバイの喧騒と人々の熱気が伝わってきます。長期旅行のお供に向いた一冊です。

『アニルの亡霊』マイケル・オンダーチェ|スリランカ

内戦下のスリランカに、国際人権団体の調査で帰国した法医学者アニルが、発見された遺骨の身元を追う物語です。スリランカ出身の作者が、故郷の自然や遺跡、そして暴力の時代を詩的な筆致で描いています。ゆっくり読むタイプの作品で、仏教遺跡や紅茶の産地を巡る旅の前に読むと、穏やかな風景の背後にある近い過去を知ることができます。

『わたしはマララ』マララ・ユスフザイ|パキスタン

パキスタン北部のスワート渓谷で育った少女マララが、女子教育の権利を訴えたことからタリバンに銃撃され、回復して活動を続けるまでを綴った自伝です。作者は2014年、史上最年少でノーベル平和賞を受賞しました。小説ではありませんが、「パキスタンのスイス」とも呼ばれた渓谷の美しい自然、家族の暮らし、学校の日常が丁寧に描かれ、ニュースだけではわからない地域の姿が見えてきます。文章は平易で読みやすい一冊です。

『君のためなら千回でも』カーレド・ホッセイニ|アフガニスタン

1970年代のカブールで育った裕福な家の少年アミールと、使用人の息子ハッサンの友情と裏切りを描いた長編です。ソ連侵攻やタリバン支配を経た祖国へ、大人になったアミールが戻ります。読みやすく、ニュースでしか知らない国の人々の暮らしや家族の情に触れられます。

『千の輝く太陽』カーレド・ホッセイニ|アフガニスタン

『君のためなら千回でも』の作者による第2作です。望まない結婚を強いられた女性マリアムと、戦火で家族を失った少女ライラが、同じ家で暮らすことになり、ソ連侵攻から内戦、タリバン支配までの約30年を生き抜いていきます。前作が男性の視点だったのに対し、こちらはアフガニスタンの女性たちが置かれてきた状況が正面から描かれます。つらい場面も多いものの物語の引きが強く、読み始めると止まらない作品です。前作とあわせて読むと、カブールという街の変化がより立体的に見えてきます。

中央アジアの小説

キルギス、ウズベキスタンの作品を紹介します。シルクロードの交易都市や広大な草原が広がる地域で、近年は旅行先としても注目されています。日本語で読める作品は多くないため、品切れの場合は図書館や古書店も活用してください。

『一世紀より長い一日』チンギス・アイトマートフ|キルギス

キルギス出身の作家アイトマートフによる長編です。カザフスタンの草原の中にある小さな鉄道の待避駅で働く男エジゲイが、亡くなった友人を遠い先祖代々の墓地へ埋葬するため、ラクダを連れて草原を進む一日が描かれます。道中で語られる、記憶を奪われた奴隷「マンクルト」の伝説や、近くの宇宙基地をめぐる物語が重なり、ソ連時代の中央アジアの人々の暮らしと、失われていく伝統への思いが浮かび上がります。構成はやや複雑ですが、草原の風景と遊牧の文化を知りたい人に向いています。日本語訳は入手しにくい場合があります。

『サマルカンド年代記』アミン・マアルーフ|ウズベキスタン

11世紀のサマルカンドで、ペルシャの詩人で学者のオマル・ハイヤームが、四行詩集『ルバイヤート』の手稿を書き始めるところから始まる歴史小説です。その手稿がたどる運命は、のちの時代のペルシャへ、さらに20世紀初めのタイタニック号へとつながっていきます。作者はレバノン出身でフランス語で書く作家です。物語性が高く、イスラム世界の学問や宮廷の様子が生き生きと描かれます。青いタイルのモスクが並ぶサマルカンドを訪れる旅の前に読むと、シルクロードの都市の歴史が身近になります。

ヨーロッパの海外文学・小説

古典の名作が多く、作品ゆかりの場所が観光地として残っていることも多い地域です。

知名度の高い作品は、現地の書店や美術館巡りでも話題にしやすく、都市そのものが主役になっている作品を選ぶと旅と結びつけやすくなります。

西欧(西ヨーロッパ)の小説

イギリス、アイルランド、フランス、ベルギー、オランダの作品を紹介します。

ロンドン、ダブリン、パリ、アムステルダムなど、作品に登場する街を実際に歩けるのが魅力です。

『日の名残り』カズオ・イシグロ|イギリス

英国の名家に長年仕えてきた老執事が、短い自動車旅行に出る物語です。旅の途中で過去を振り返るうちに、彼が信じてきた「品格」の意味が少しずつ揺らいでいきます。ブッカー賞受賞作で、作者は2017年にノーベル文学賞を受賞しました。穏やかな語り口で読みやすく、英国の階級意識や田園風景が伝わるので、イングランドの地方を巡る旅と相性のよい一冊です。

『高慢と偏見』ジェイン・オースティン|イギリス

19世紀初めのイングランドの地方を舞台に、5人姉妹の次女エリザベスと資産家ダーシーの恋を描いた古典です。結婚が女性の生活を左右した時代の価値観と、会話に潜む皮肉やユーモアが魅力です。古典の中では読みやすい部類で、複数の翻訳があるので試し読みで選ぶとよいでしょう。カントリーハウスや英国の田舎町を訪れる前に向いています。

『嵐が丘』エミリー・ブロンテ|イギリス

イングランド北部ヨークシャーの荒野に建つ屋敷を舞台に、孤児ヒースクリフと屋敷の娘キャサリンの激しい愛と、その後の復讐を二世代にわたって描いた作品です。語り手が入れ子になった構成で、最初は少し戸惑うかもしれません。荒涼とした風景が物語と深く結びついており、ブロンテ姉妹が暮らしたハワースを訪れる旅の前にぜひ読んでおきたい一冊です。

『ダロウェイ夫人』ヴァージニア・ウルフ|イギリス

1923年6月のロンドンで、パーティーを開く上流階級の女性クラリッサの一日を、登場人物の意識の流れに沿って描いた小説です。戦争の傷を負った帰還兵の一日も並行して描かれます。文体に慣れるまで時間がかかる作品ですが、ビッグ・ベンの鐘が響くウェストミンスター周辺の街並みが鮮やかで、ロンドンの街歩きの前に読むと楽しみが増えます。

『シャーロック・ホームズの冒険』アーサー・コナン・ドイル|イギリス

ロンドンのベーカー街221Bに住む名探偵ホームズと、相棒のワトスンが事件を解決していく短編集です。霧、馬車、ガス灯、階級社会など、19世紀末のヴィクトリア朝ロンドンの雰囲気がたっぷり味わえます。1編ずつ区切って読めるので移動中にも向いており、ロンドン旅行の定番の一冊です。

『クリスマス・キャロル』チャールズ・ディケンズ|イギリス

クリスマス・イブの夜、ロンドンで金貸しを営む強欲な老人スクルージのもとに、過去・現在・未来のクリスマスの幽霊が現れる物語です。1843年の発表以来、英国のクリスマスのイメージを形づくってきた作品として知られています。短く読みやすく、ヴィクトリア朝ロンドンの貧富の差や、家族で祝うクリスマスの習慣が伝わってきます。冬のロンドンやクリスマスマーケットの時期に英国を訪れる前に読みたい一冊です。

『ダブリナーズ』ジェイムズ・ジョイス|アイルランド

20世紀初めのダブリンで暮らす人々を描いた短編集で、『ダブリンの市民』という訳題でも知られています。子ども時代から大人、社会生活へと順に並べられた物語から、停滞した空気の中で生きる市民の姿が浮かび上がります。ジョイスの作品の中では最も読みやすく、ダブリンのパブや旧市街を歩く前に読むと通りの名前に親しみがわきます。

『ブルックリン』コルム・トビーン|アイルランド

1950年代、アイルランドの田舎町で職を得られない若い女性アイリーシュが、ニューヨークのブルックリンへ渡り、新しい生活と故郷の間で揺れる物語です。映画化もされています。多くの人が国を離れたアイルランド移民の歴史と、故郷を離れて暮らす心細さが静かに伝わってきます。読みやすく、アイルランドにもニューヨークにも関心がある人に向いています。

『悲しみよこんにちは』フランソワーズ・サガン|フランス

南仏の別荘で夏を過ごす17歳の少女と父親、その恋人たちを描いた小説です。作者が18歳で発表し、世界的なベストセラーになりました。陽射し、海、気だるいバカンスの空気が短い文章に凝縮されています。薄く短時間で読めるので、南仏や地中海沿岸への旅のお供にぴったりです。

『移動祝祭日』アーネスト・ヘミングウェイ|フランス

若き日のヘミングウェイが、1920年代のパリで過ごした日々を振り返った回想録です。カフェで原稿を書き、書店に通い、作家仲間と語り合う生活が描かれます。小説ではありませんが短い章の積み重ねで読みやすく、パリの街歩きやカフェ巡りの前に読むと、実在する通りやカフェへの見方が変わります。

『レ・ミゼラブル』ヴィクトル・ユゴー|フランス

一切れのパンを盗んで長い服役生活を送ったジャン・ヴァルジャンの生涯を軸に、19世紀前半のフランス社会を描いた大長編です。パリの下水道や1832年の六月暴動の場面は特に有名で、ミュージカルや映画でも親しまれています。全訳は非常に長いため、まずは読みやすい抄訳から入るのも一つの方法です。長期のフランス滞在中にじっくり読むのに向いています。

『オペラ座の怪人』ガストン・ルルー|フランス

19世紀末のパリ・オペラ座を舞台に、劇場の地下に潜む謎の男「ファントム」と、彼が才能を見いだした若い歌手クリスティーヌ、彼女の幼なじみラウルをめぐる物語です。ミュージカル版が世界的に有名ですが、原作は怪奇小説と推理小説の要素が強く、劇場の地下に広がる迷路や地底湖の描写が印象的です。物語の舞台となった建物は、現在も「オペラ・ガルニエ」として見学できます。訪れる前に読むと、豪華な大階段や客席の見え方が変わります。

『香水 ある人殺しの物語』パトリック・ジュースキント|フランス

18世紀のパリで生まれた、超人的な嗅覚を持つ男グルヌイユが、究極の香水を求めて恐ろしい行為に手を染めていく物語です。作者はドイツの作家で、映画化もされています。悪臭に満ちた当時のパリや、香水の町グラースの工房の描写が印象的です。読みやすく引き込まれる作品で、南仏のグラースを訪れる前に読むと香水づくりの歴史に興味がわきます。

『すべての見えない光』アンソニー・ドーア|フランス

第二次世界大戦下、ブルターニュ地方の城壁の港町サン・マロを舞台に、目の見えないフランス人の少女マリー=ロールと、ラジオの技術に才能を持つドイツ人の少年ヴェルナーの運命が、交互に描かれていく長編です。作者はアメリカの作家で、ピュリツァー賞を受賞し、ドラマ化もされています。短い章が積み重なる構成で、長さの割に読み進めやすい作品です。サン・マロの旧市街は戦争末期の爆撃で大きく破壊され、その後再建されました。モン・サン・ミシェルとあわせてブルターニュ地方を巡る旅の前に読むと、城壁の街並みが違って見えてきます。

『フランダースの犬』ウィーダ|ベルギー

ベルギーのアントワープ近郊を舞台に、貧しい少年ネロと老犬パトラッシュの友情を描いた英国の作家による物語です。日本ではアニメで広く知られていますが、原作を読むと、当時の村の貧しさや、ネロが憧れたルーベンスの絵の意味がよくわかります。短く読みやすいので、アントワープの大聖堂を訪れる前にさっと読んでおくのがおすすめです。

『アンネの日記』アンネ・フランク|オランダ

第二次世界大戦中、ナチスの迫害を逃れてアムステルダムの隠れ家で暮らしたユダヤ人少女の日記です。限られた空間での家族の生活や、思春期の揺れる心が率直に綴られています。日記形式なので少しずつ読めます。隠れ家は現在「アンネ・フランクの家」として公開されており、訪問を予定しているなら事前に読んでおくと見学の意味が大きく変わります。入館方法は公式サイトで最新情報を確認してください。

『真珠の耳飾りの少女』トレイシー・シュヴァリエ|オランダ

17世紀オランダのデルフトで、画家フェルメールの家に奉公に出た少女グリートの視点から、名画の誕生を想像して描いた小説です。映画化もされています。当時の職人の暮らしや絵の具づくり、家の中の階層関係が細やかに描かれ、読みやすい作品です。デン・ハーグの美術館で実物の絵を見る前に読むと、鑑賞がいっそう楽しくなります。

南欧(南ヨーロッパ)の小説

イタリア、スペイン、ポルトガル、ギリシャの作品を紹介します。明るい観光地のイメージがある地域ですが、20世紀には内戦や独裁政権を経験した国も多くあります。路地や港、山や島の風景が濃く描かれた作品が多く、旅の気分を高めてくれます。

『リラとわたし』エレナ・フェッランテ|イタリア

1950年代のナポリの下町で育つ二人の少女の友情を描いた「ナポリの物語」シリーズの第1作です。暴力や貧しさもある濃密な地域社会の中で、家族や近所の人間関係が細かく描かれます。全4部作でドラマ化もされており、登場人物が多いので巻頭の人物紹介を活用すると読みやすくなります。ナポリを含む南イタリアの旅や長期旅行に向いています。

『帰れない山』パオロ・コニェッティ|イタリア

ミラノで育った少年ピエトロが、夏を過ごす北イタリアの山村で、牛飼いの少年ブルーノと出会い、二人の友情が数十年にわたって続いていく物語です。イタリアで最も権威ある文学賞の一つ、ストレーガ賞を受賞し、映画化もされています。山登りを愛した父との関係や、都会と山で生きる人の違いが静かに描かれます。文章は平易で、分量もほどよい作品です。モンテ・ローザ周辺のアルプスやドロミテなど、北イタリアの山岳地帯でハイキングを楽しむ旅の前に読むと、山小屋や谷の風景がより身近に感じられます。

『眺めのいい部屋』E・M・フォースター|イタリア

20世紀初め、フィレンツェを旅する英国の令嬢ルーシーが、宿の「眺めのいい部屋」をきっかけに型破りな青年と出会う物語です。旅行者としてイタリアを見る英国人の視点と、英国とイタリアの気質の違いがユーモラスに描かれます。読みやすく映画化もされており、フィレンツェ旅行の前に読むと、ドゥオーモやアルノ川の風景が物語と重なります。

『ヴェネツィアに死す』トーマス・マン|イタリア

静養のためヴェネツィアを訪れた高名な老作家が、ホテルで見かけた美少年に心を奪われ、疫病が広がる街に留まり続ける中編です。ヴィスコンティ監督の映画版でも知られています。短い作品ですが文体は重厚で、美しさと退廃が同居するヴェネツィアの空気が伝わってきます。夏のヴェネツィアやリド島を訪れる前に向いています。

『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ|イタリア

1327年、北イタリアの修道院で起きる連続殺人事件を、修道士ウィリアムが若い弟子とともに解き明かしていく歴史ミステリーです。中世の修道院の暮らしや宗教論争、迷宮のような図書館が描かれます。長く難解な議論の場面もありますが、謎解きの筋は追いやすく、中世の修道院や大聖堂を巡る旅の前に読むと見学の楽しみが深まります。

『山猫』トマージ・ディ・ランペドゥーサ|イタリア

19世紀半ば、イタリア統一の動乱期を迎えたシチリアで、没落していく名門貴族の当主を描いた長編です。作者自身もシチリアの貴族の出身で、ヴィスコンティ監督による映画版も有名です。描写が丁寧で、ゆっくり読む作品です。シチリアの乾いた大地や宮殿、時代の変化を受け入れる諦めにも似た空気がわかり、パレルモを訪れる旅に向いています。

『風の影』カルロス・ルイス・サフォン|スペイン

内戦後のバルセロナで、古書店の息子が一冊の謎めいた本と出会い、その作家の過去を追っていくミステリーです。ゴシック地区の路地や古い建物が物語の重要な舞台になっています。物語の引きが強く、長さの割にどんどん読み進められます。バルセロナの旧市街の雰囲気と内戦後の重い空気の両方がわかる、バルセロナ旅行の定番の一冊です。

『日はまた昇る』アーネスト・ヘミングウェイ|スペイン

第一次世界大戦後、パリで享楽的に暮らすアメリカ人や英国人の若者たちが、スペインのパンプローナへ牛追い祭りで知られるサン・フェルミン祭を見に行く物語です。戦争で傷ついた「失われた世代」の空気が、短く簡潔な文章で描かれます。7月のパンプローナやバスク地方を訪れる人には、祭りの熱気を先取りできる一冊です。

『ドン・キホーテ』ミゲル・デ・セルバンテス|スペイン

騎士道物語を読みすぎて自分を騎士だと思い込んだ郷士が、従者サンチョ・パンサとともにラ・マンチャ地方を旅する物語です。前編と後編からなる長い作品ですが、滑稽なエピソードの積み重ねなので、気になる場面から読んでも楽しめます。抄訳や新訳も出ています。ラ・マンチャ地方の風車を見に行く旅の前に読んでおくと、景色がいっそう印象に残ります。

『アルハンブラ物語』ワシントン・アーヴィング|スペイン

19世紀前半、アメリカの作家アーヴィングが、グラナダのアルハンブラ宮殿の一室に実際に滞在した日々の見聞と、宮殿にまつわるイスラム王朝時代の伝説をまとめた作品です。荒れ果てていた当時の宮殿に住む人々との交流や、王女や財宝をめぐる物語が穏やかな文章で語られます。この本をきっかけにアルハンブラ宮殿が広く知られるようになったとも言われ、宮殿内には作者が滞在した部屋を示す案内も残っています。一話ずつ区切って読めるので、グラナダ旅行の前後にぴったりの一冊です。宮殿の入場は事前予約が基本のため、公式サイトで最新情報を確認してください。

『リスボンへの夜行列車』パスカル・メルシエ|ポルトガル

スイスの古典語教師が、偶然手にしたポルトガル語の本に導かれ、衝動的にリスボン行きの夜行列車に乗る物語です。リスボンで著者の足跡をたどるうちに、独裁政権下の抵抗運動の過去が明らかになっていきます。思索的な場面が多い作品で、坂の多いリスボンの街並みと独裁の時代を知る手がかりになります。鉄道でヨーロッパを移動する旅にも向いています。

『オデュッセイア』ホメロス|ギリシャ

トロイア戦争に勝利した英雄オデュッセウスが、故郷イタカ島へ帰り着くまでの10年に及ぶ漂流と、留守を守る妻ペネロペイアのもとへ戻るまでを描いた古代ギリシャの叙事詩です。一つ目の巨人キュクロプスや魔女キルケ、歌で船乗りを誘うセイレーンなど、のちの物語に大きな影響を与えたエピソードが次々と登場します。古典ですが散文訳もあり、冒険物語として読み進められます。エーゲ海やイオニア海の島々を船で巡る旅の前に読むと、海の色や島影がいっそう特別なものに見えてきます。

『その男ゾルバ』ニコス・カザンザキス|ギリシャ

クレタ島で炭鉱を開こうとする内向的な若い知識人と、彼に雇われた奔放な老人ゾルバとの交流を描いた小説です。映画版でも知られています。島の人々の暮らしやゾルバの生き方を通して、ギリシャの陽気さと厳しい風土が伝わってきます。翻訳書は入手しにくい場合があるため、図書館や古書店もあわせて探してください。クレタ島やエーゲ海の島々を巡る旅に向いています。

中欧(中央ヨーロッパ)の小説

ドイツ、オーストリア、スイス、チェコの作品を紹介します。ベルリン、ウィーン、プラハは、第二次世界大戦や冷戦の記憶が街の中に色濃く残る都市です。一方で、アルプスの自然を描いた作品も多くあります。

『朗読者』ベルンハルト・シュリンク|ドイツ

戦後の西ドイツで、15歳の少年が年上の女性と出会う物語です。後に彼女の過去が明らかになり、物語はナチス時代の罪をどう裁き、どう受け止めるかという問いへ進みます。『愛を読むひと』のタイトルで映画化されました。分量は多くなく、戦後ドイツの世代が過去とどう向き合ってきたかがわかるので、ベルリンで記念館を訪れる前に読んでおきたい一冊です。

『ベルリン・アレクサンダー広場』アルフレート・デーブリーン|ドイツ

1920年代後半、刑務所を出所した労働者フランツ・ビーバーコップが、まっとうに生きようと決意しながら、ベルリンの裏社会に再び引き込まれていく長編です。新聞記事や広告、街の雑音をコラージュのように挟み込む実験的な文体で、ワイマール共和国時代の大都市ベルリンの騒がしさがそのまま伝わってきます。ファスビンダー監督によるテレビドラマ版も知られています。読みごたえは重めですが、現在も同じ名前の広場があるベルリンを、100年前の姿と重ねて歩きたい人に向いています。

『エーミールと探偵たち』エーリヒ・ケストナー|ドイツ

1920年代、ベルリンへ向かう列車で大切なお金を盗まれた少年エーミールが、街の子どもたちと協力して犯人を追う児童文学です。大人が読んでも楽しめ、路面電車が走り人々が行き交う当時のベルリンの活気が伝わってきます。短く読みやすいので、家族でのドイツ旅行の前に親子で読むのにも向いています。

『帰ってきたヒトラー』ティムール・ヴェルメシュ|ドイツ

現代のベルリンで目覚めたヒトラーが、ものまね芸人と勘違いされてテレビの人気者になっていく風刺小説です。映画化もされています。笑いながら読み進めるうちに、現代ドイツが過去やメディアとどう向き合っているのかを考えさせられます。読みやすく、ドイツの今の社会に関心がある人に向いています。

『昨日の世界』シュテファン・ツヴァイク|オーストリア

ウィーン出身の作家ツヴァイクが、第一次世界大戦前の華やかなウィーンと、二つの大戦によってその世界が失われていく過程を振り返った回想録です。カフェや劇場、音楽に彩られた当時のウィーンの文化がよくわかります。長めの作品なので、関心のある章から読むのも一つの方法です。ウィーンで美術館やカフェを巡る旅に向いています。

『第三の男』グレアム・グリーン|オーストリア

第二次世界大戦後、米英仏ソの4か国に分割占領されたウィーンで、友人の死の真相を探るアメリカ人作家の物語です。もともとは名作映画の原作として書かれた中編で、短く読みやすい作品です。プラーター公園の大観覧車や地下の下水道など、映画でも有名な場所が登場し、ウィーンの街を少し違った目で歩けるようになります。

『ハイジ』ヨハンナ・シュピーリ|スイス

スイス・アルプスの山小屋で祖父と暮らす少女ハイジが、都会のフランクフルトでの生活を経て、再び山へ戻る物語です。アニメで知られていますが、完訳版で読むと、信仰の要素や都会と山の暮らしの対比がよりはっきり見えてきます。作品の舞台とされるマイエンフェルト周辺やアルプスを訪れる旅の前に向いています。

『魔の山』トーマス・マン|スイス

第一次世界大戦前、スイス・ダヴォスの結核療養所に従兄を見舞った青年ハンス・カストルプが、そのまま7年間滞在してしまう物語です。登場人物たちの思想的な対話が多く、長大で読みごたえは重めです。山の療養所という閉じた世界に流れる独特の時間を味わう作品で、長期滞在や長期旅行の間にじっくり読みたい文学好きにおすすめです。

『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ|チェコ

1968年の「プラハの春」と、その後のソ連軍の侵攻を背景に、プラハに生きる男女4人の関係を描いた小説です。恋愛小説でありながら、自由が奪われていく時代の空気がはっきりと伝わってきます。哲学的な語りが挟まりますが、筋は追いやすい作品です。プラハ旅行や中欧の歴史に関心がある人に向いています。

『変身』フランツ・カフカ|チェコ

ある朝目覚めると巨大な虫になっていた青年と、その家族の変化を描いた中編です。カフカはプラハで生まれ育ち、ドイツ語で作品を書きました。短く、旅行前の数時間で読み終えられます。プラハにはカフカゆかりの場所が点在しているので、街歩きの前に読んでおくと楽しみが増えます。

『兵士シュヴェイクの冒険』ヤロスラフ・ハシェク|チェコ

第一次世界大戦中、オーストリア=ハンガリー帝国軍に召集されたプラハの男シュヴェイクが、とぼけた言動で軍隊や権威を振り回していく風刺小説です。作者の死で未完となった長編ですが、エピソード単位で楽しめます。プラハには作品ゆかりの居酒屋もあり、チェコ人のユーモアと権威への距離感を知りたい人に向いています。

東欧(東ヨーロッパ)の小説

ポーランド、リトアニア、ハンガリー、ルーマニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アルバニア、ロシア、ベラルーシ、ウクライナの作品を紹介します。

戦争や社会主義体制を経験した国が多く、自由や抑圧を背景にした作品が数多く生まれています。

『灰とダイヤモンド』イェジ・アンジェイェフスキ|ポーランド

1945年5月、ドイツ降伏直後のポーランドの地方都市で、共産党幹部の暗殺を命じられた若い抵抗組織の青年を描いた小説です。アンジェイ・ワイダ監督の映画でも知られています。戦争が終わった直後の、権力をめぐる混乱と若者の迷いが伝わってきます。ポーランドの戦後史を知るための一冊です。

『戦場のピアニスト』ウワディスワフ・シュピルマン|ポーランド

ユダヤ系のピアニストだった作者が、ナチス占領下のワルシャワでゲットーから逃れ、廃墟に隠れて生き延びた体験を綴った回想録です。ロマン・ポランスキー監督の映画の原作です。淡々とした語りで読みやすく、戦争で破壊され再建されたワルシャワの街を訪れる前に読むと、旧市街の見え方が大きく変わります。

『夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル|ポーランド

オーストリアの精神科医フランクルが、アウシュヴィッツなどナチスの強制収容所に送られた体験を、心理学者の目で振り返った記録です。極限状態の中で人は何を支えに生きるのかという問いが、感情的になりすぎない筆致で語られます。小説ではありませんが、世界中で長く読み継がれてきた一冊です。旧訳と新訳があり、新訳のほうが文章は平易で読みやすくなっています。分量は多くないものの内容は重いため、落ち着いて読める時間に手に取ってください。ポーランド南部クラクフ近郊のアウシュヴィッツ=ビルケナウ博物館を訪れる予定があるなら、事前に読んでおくと見学の受け止め方が大きく変わります。見学の予約方法は公式サイトで最新情報を確認してください。

『逃亡派』オルガ・トカルチュク|ポーランド

2018年のノーベル文学賞を受けたポーランドの作家による、旅と移動をテーマにした断章形式の小説です。空港やホテル、旅先での出来事、人体標本の歴史など、短い文章がつながりながら展開します。ポーランドそのものを描いた作品ではありませんが、どこからでも読めるので、移動の多い旅や長期旅行のお供として旅好きの人に向いています。

『灰色の地平線のかなたに』ルータ・セペティス|リトアニア

1941年、ソ連の秘密警察によって家族とともに連行されたリトアニアの15歳の少女リナが、シベリアの強制労働収容所、さらに北極圏の地へと送られていく物語です。作者はリトアニア系アメリカ人で、親族の体験や生存者への取材をもとに書かれました。ヤングアダルト向けの作品なので文章は読みやすく、絵を描くことで希望をつなぐ少女の姿が胸に残ります。バルト三国が経験したソ連支配の歴史がわかり、首都ヴィリニュスの占領と自由の戦い博物館を訪れる前に読むと、展示の重みが実感できます。

『悪童日記』アゴタ・クリストフ|ハンガリー

第二次世界大戦中、祖母の住む国境近くの町に預けられた双子の少年が、過酷な環境を生き抜く姿を二人の日記という形で描いた小説です。作者はハンガリー出身で、亡命先のスイスでフランス語で書きました。短い文章の積み重ねで読みやすい一方、残酷な場面も含みます。戦争と占領を経験した中欧の空気が伝わり、ブダペストを訪れる旅の前に向いています。

『ドラキュラ』ブラム・ストーカー|ルーマニア

英国の弁護士が、トランシルヴァニアの古城に住むドラキュラ伯爵を訪ねるところから始まる怪奇小説です。日記や手紙を組み合わせた構成で、19世紀末の英国とルーマニアの山岳地帯が描かれます。作者はアイルランド出身です。トランシルヴァニア地方には「ドラキュラ城」として知られる城もあり、ルーマニア旅行の前に読むと楽しみが増えます。

『ドリナの橋』イヴォ・アンドリッチ|ボスニア・ヘルツェゴビナ

ボスニアの町ヴィシェグラードに16世紀に架けられた石橋を軸に、オスマン帝国時代から第一次世界大戦までの約400年にわたる町の人々を描いた年代記です。作者は1961年にノーベル文学賞を受賞しました。橋は世界遺産に登録されています。翻訳書は入手しにくい場合があるため、図書館も活用してください。バルカン半島の歴史を知りたい人に向いています。

『砕かれた四月』イスマイル・カダレ|アルバニア

20世紀前半、アルバニア北部の山岳地帯を舞台に、古くから伝わる掟「カヌン」に従って兄の仇を討った青年ジョルグが、今度は自分が報復の標的となり、猶予期間の30日を生きる物語です。同じ頃、首都から新婚旅行で山岳地帯を訪れた作家夫婦の視点も描かれ、外から見た「掟の世界」との対比が浮かび上がります。作者はアルバニアを代表する作家で、第1回ブッカー国際賞を受賞しました。分量は多くなく、緊張感のある展開で読み進めやすい作品です。ヨーロッパの中でも情報の少ないアルバニアの山の文化を知る手がかりになります。

『罪と罰』フョードル・ドストエフスキー|ロシア

19世紀のサンクトペテルブルクで、貧しい元学生が殺人を犯し、罪の意識に追い詰められていく長編です。狭い下宿や混み合う路地、夏の蒸し暑さなど、街の描写が物語の重苦しさと結びついています。長く人名の呼び方も複数ありますが、新しい訳ほど読みやすい傾向があります。時間をかけて読める長期旅行のお供にも向いています。

『アンナ・カレーニナ』レフ・トルストイ|ロシア

19世紀後半のペテルブルクとモスクワの上流社会で、愛のない結婚から抜け出そうとする貴婦人アンナと、地方で農業や信仰に向き合う青年リョーヴィンの人生を対照的に描いた大長編です。長い作品ですが筋は追いやすく、当時のロシアの都市と農村の両方の暮らしがわかります。じっくり読める時間があるときにおすすめです。

『巨匠とマルガリータ』ミハイル・ブルガーコフ|ロシア

1930年代のモスクワに悪魔の一行が現れて街を混乱に陥れる物語と、ある作家と恋人マルガリータの物語が並行して進む長編です。体制の検閲下で書かれ、作者の死後に発表されました。幻想的でユーモアのある展開が多く、長さの割に読み進めやすい作品で、ソ連時代の都市生活や官僚社会への風刺がわかります。

『モスクワの伯爵』エイモア・トールズ|ロシア

ロシア革命後の1922年、モスクワの高級ホテル「メトロポール」に軟禁を言い渡された伯爵が、30年以上をホテルの中で過ごす物語です。作者はアメリカの作家です。優雅でユーモアのある文章で読みやすく、ホテルの中から激動のソ連の歴史を眺めるという視点が新鮮です。ホテルという空間が好きな人にもおすすめの一冊です。

『戦争は女の顔をしていない』スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ|ベラルーシ

第二次世界大戦に、ソ連軍の兵士や看護師などとして従軍した女性たちの証言を集めた作品です。作者はベラルーシ出身のジャーナリストで、2015年にノーベル文学賞を受賞しました。小説ではありませんが、一人ひとりの声が文学のような重みを持っています。内容は重いものの、証言ごとに区切って読めます。漫画版も出ています。

『ペンギンの憂鬱』アンドレイ・クルコフ|ウクライナ

ソ連崩壊後のキーウで、売れない作家が動物園から引き取ったペンギンと暮らしながら、新聞の死亡記事を書く仕事を始める物語です。とぼけた雰囲気の中に、不穏な社会情勢がじわじわと入り込んできます。軽やかな文章で読みやすく、1990年代のウクライナの空気を知ることができます。渡航については外務省の危険情報を必ず確認してください。

北欧(北ヨーロッパ)の小説

スウェーデン、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、アイスランドの作品を紹介します。白夜や長い冬、豊かな自然など、日本とは異なる季節感を持つ地域です。福祉国家の明るいイメージとは別の側面を描いたミステリーも人気があります。

『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』スティーグ・ラーソン|スウェーデン

名誉毀損で有罪判決を受けたジャーナリストと、天才的なハッカーの女性が、大企業一族の40年前の失踪事件を追うミステリーです。世界的なベストセラーで映画化もされています。長いものの展開が早く、ストックホルムの街やスウェーデン社会の暗い側面が描かれます。北欧の長距離移動や長期旅行のお供に向いています。

『幸せなひとりぼっち』フレドリック・バックマン|スウェーデン

妻を亡くし、仕事も失った頑固な男オーヴェが、隣に越してきた家族に振り回されながら、少しずつ人と関わり直していく物語です。映画化もされています。笑いと涙のバランスがよく読みやすい作品で、スウェーデンの郊外の住宅地での暮らしや、近所付き合いの距離感が伝わってきます。

『ニルスのふしぎな旅』セルマ・ラーゲルレーヴ|スウェーデン

いたずら好きの少年ニルスが小人にされ、ガチョウの背に乗ってスウェーデン中を旅する物語です。もともとは子どもたちに自国の地理を教える読本として書かれました。作者は女性として初めてノーベル文学賞を受賞しています。完訳は長いので抄訳から入っても十分楽しめ、スウェーデンの各地方を巡る旅の前に読むと土地ごとの特徴がつかめます。

『ソフィーの世界』ヨースタイン・ゴルデル|ノルウェー

ノルウェーに暮らす14歳の少女ソフィーのもとに謎の手紙が届き、哲学の講義が始まるという物語です。古代ギリシャから現代までの哲学の歴史を、物語を楽しみながらたどれます。世界的なベストセラーで、長いものの文章は平易です。ノルウェーの風景描写は控えめなので、旅の準備というより、移動中にじっくり読みたい人に向いています。

『人形の家』ヘンリック・イプセン|ノルウェー

弁護士の夫に大切にされ、何不自由なく暮らしているように見える妻ノラが、ある秘密をきっかけに、自分が夫の「人形」として扱われてきたことに気づいていく戯曲です。1879年の初演当時、ノラの最後の決断は大きな議論を呼びました。戯曲なので会話だけで進み、短時間で読み切れます。19世紀ノルウェーの家庭と結婚観、そして北欧が男女平等を進めてきた背景を考えるきっかけになります。オスロには作者が晩年を過ごした住まいを公開する博物館もあります。

『アンデルセン童話集』ハンス・クリスチャン・アンデルセン|デンマーク

『人魚姫』『マッチ売りの少女』『みにくいアヒルの子』などを収めた童話集です。子ども向けと思われがちですが、大人が読み返すと、19世紀デンマークの貧しさや信仰、結末の厳しさに驚かされます。1編が短く読みやすいので、コペンハーゲンの人魚姫像や、生まれ故郷オーデンセを訪れる旅の前に向いています。

『少女ソフィアの夏』トーベ・ヤンソン|フィンランド

ムーミンの作者として知られるトーベ・ヤンソンが、フィンランド湾に浮かぶ小さな島で夏を過ごす少女と祖母の日々を描いた小説です。短いエピソードが連なる形で、島の自然と二人の会話が静かに綴られます。読みやすく、フィンランドの人々にとっての夏の大切さや自然との距離の近さがわかるので、夏のヘルシンキや群島を訪れる旅にぴったりです。

『湿地』アーナルデュル・インドリダソン|アイスランド

アイスランドの首都レイキャビクで老人が殺され、捜査官エーレンデュルが古い事件と一族の秘密に迫っていく警察小説です。人口の少ない島国ならではの人間関係や、雨と湿気の多い陰鬱な気候が物語と結びついています。シリーズ化されており読みやすいので、アイスランド旅行の前に、観光地とは違う日常の顔を知りたい人に向いています。

南北アメリカの海外文学・小説

北米は都市と移動の物語、中南米は独特の世界観を持つ作品が多いのが特徴です。

広い大陸を移動する旅では読書時間も長くなりやすいので、長めの作品を選ぶのにも向いています。

北米の小説

アメリカ、カナダの作品を紹介します。

ニューヨークのような大都市から、南部の小さな町、カナダの島まで、作品によって描かれる風景は大きく異なります。

行き先の地域に合わせて選ぶのがポイントです。

『グレート・ギャツビー』F・スコット・フィッツジェラルド|アメリカ

1920年代、ニューヨーク近郊のロングアイランドを舞台に、豪華なパーティーを開く謎の富豪ギャツビーと、彼が追い続けた恋を描いた作品です。好景気に沸く時代の華やかさと、その裏にある空しさが短い物語に詰まっています。村上春樹訳をはじめ複数の翻訳があり、ニューヨーク旅行や初めてのアメリカの前に読みたい一冊です。

『ティファニーで朝食を』トルーマン・カポーティ|アメリカ

第二次世界大戦中のニューヨークを舞台に、自由奔放に生きる女性ホリー・ゴライトリーと、同じアパートに住む作家志望の青年との交流を描いた中編です。オードリー・ヘップバーン主演の映画が有名ですが、原作は映画とは異なる結末を迎えます。短くすぐに読めるので、ニューヨークの街角やアパートの見え方が変わる一冊として旅の前に向いています。

『ライ麦畑でつかまえて』J・D・サリンジャー|アメリカ

名門校を退学になった16歳の少年ホールデンが、クリスマス前のニューヨークを数日間さまよう物語です。村上春樹訳では『キャッチャー・イン・ザ・ライ』のタイトルで出ています。大人の世界への反発を独特の口語体で語る文体は好みが分かれますが、セントラルパークなど実在の場所が多く登場し、ニューヨークの冬の空気が伝わってきます。

『若草物語』ルイザ・メイ・オルコット|アメリカ

南北戦争の時代、父が従軍して留守のあいだ、マサチューセッツ州の町で母とともに暮らすマーチ家の四姉妹の一年を描いた物語です。作家を目指す次女ジョーを中心に、貧しさの中での助け合いや、それぞれの夢と悩みが温かく描かれます。何度も映画化されており、読みやすく大人が読み返しても発見のある作品です。作者が家族と暮らしたボストン近郊コンコードの「オーチャード・ハウス」は現在も公開されており、ニューイングランド地方を巡る旅と相性がよい一冊です。

『ハックルベリー・フィンの冒険』マーク・トウェイン|アメリカ

19世紀前半、少年ハックと逃亡奴隷のジムが、いかだでミシシッピ川を下っていく冒険物語です。川沿いの町の人々や南部の奴隷制が、少年の目を通して描かれます。当時の差別的な表現がそのまま含まれている点には注意が必要です。アメリカ文学の原点とも言われる作品で、ミシシッピ川流域を訪れる旅の前に向いています。

『地下鉄道』コルソン・ホワイトヘッド|アメリカ

19世紀前半、ジョージア州の綿花農園で奴隷として生きる少女コーラが、逃亡を決意し、地下を走る秘密の鉄道に乗って北を目指す物語です。「地下鉄道」とは、実際には逃亡奴隷を助けた人々の秘密のネットワークを指す言葉ですが、この作品ではそれを本物の鉄道として描いています。駅に着くたびに州ごとに異なる差別の形が現れる構成で、ピュリツァー賞と全米図書賞をともに受賞し、ドラマ化もされました。暴力の描写は重いものの、物語の緊張感が高く読み進めやすい作品です。アメリカ南部を訪れる旅や、奴隷制の歴史を扱う博物館を見学する前に読むと理解が深まります。

『風と共に去りぬ』マーガレット・ミッチェル|アメリカ

南北戦争と戦後のジョージア州を舞台に、大農園主の娘スカーレット・オハラの波乱の人生を描いた大長編です。物語性が高く長さの割に読み進められますが、南部白人の視点で書かれており、奴隷制の描き方には批判もあります。その点を意識して読むと、アメリカ南部の歴史と、今も続く議論を考えるきっかけになります。『地下鉄道』とあわせて読むと、同じ南部を異なる視点から見ることができます。

『ものまね鳥を殺すのは: アラバマ物語』ハーパー・リー|アメリカ

1930年代のアメリカ南部、アラバマ州の小さな町で、弁護士の父が黒人男性の弁護を引き受けたことから、娘のスカウトが町の偏見と向き合っていく物語です。ピュリツァー賞を受賞し、新訳は『ものまね鳥を殺すのは』のタイトルで出ています。子どもの視点で語られるため読みやすく、南部の人種差別の歴史と地域社会の空気がよくわかります。

『怒りの葡萄』ジョン・スタインベック|アメリカ

1930年代、砂嵐と大恐慌で土地を失ったオクラホマの農民一家が、仕事を求めてルート66を通りカリフォルニアへ向かう物語です。ピュリツァー賞を受賞し、作者はのちにノーベル文学賞も受けています。長い作品ですが、大陸を西へ進む旅の過酷さが胸に迫ります。ルート66のドライブ旅行を考えている人には特に意味のある一冊です。

『オン・ザ・ロード』ジャック・ケルアック|アメリカ

1940年代後半、若者たちがアメリカ大陸を車やヒッチハイクで何度も横断する物語です。作者自身の旅をもとに書かれ、のちの若者文化に大きな影響を与えました。勢いのある文体で、筋より空気を楽しむ作品です。アメリカの広さが実感できるので、レンタカーでのロードトリップや長距離バスでの移動が多い旅と相性がよい一冊です。

『ザリガニの鳴くところ』ディーリア・オーエンズ|アメリカ

ノースカロライナ州の湿地帯で家族に置き去りにされ、たった一人で生き抜いた少女カイアと、町で起きた青年の死をめぐる物語です。動物学者でもある作者による自然描写が豊かで、日本でも本屋大賞の翻訳小説部門で1位になり、映画化もされました。読みやすく、アメリカ南東部の湿地の風景と小さな町の閉鎖性が伝わってきます。

『赤毛のアン』L・M・モンゴメリ|カナダ

プリンス・エドワード島の農家に引き取られた孤児アンの成長を描いた物語です。赤土の道、果樹の花、四季の移り変わりなど、島の自然が丁寧に描かれています。子ども向けと思われがちですが、大人が読んでも19世紀末の農村の暮らしがよくわかります。読みやすく、プリンス・エドワード島を含むカナダ東部の旅には欠かせない作品です。

『ディア・ライフ』アリス・マンロー|カナダ

カナダ・オンタリオ州の小さな町などを舞台に、ごく普通の人々の人生の転機を描いた短編集です。作者は短編小説の名手として知られ、2013年にノーベル文学賞を受賞しました。最後の4編は作者自身の子ども時代をもとにしています。静かで余韻の残る作品が多く、大都市以外のカナダの暮らしを知りたい人や、短編をじっくり味わいたい人に向いています。

中南米の小説

キューバ、ドミニカ共和国、メキシコ、コロンビア、ペルー、ブラジル、チリ、アルゼンチンの作品を紹介します。

現実の出来事と不思議な出来事が当たり前のように混ざり合う作風は、中南米文学の大きな特徴です。

初めてなら、短めの作品から入り、気に入れば長編に進むと無理がありません。

『老人と海』アーネスト・ヘミングウェイ|キューバ

キューバの漁村で暮らす年老いた漁師が、小舟で沖に出て巨大なカジキと何日も格闘する物語です。ヘミングウェイは長くキューバに暮らし、この作品でピュリツァー賞を受賞しました。短く読みやすく、旅行前の一晩で読み終えられます。ハバナ周辺にはヘミングウェイゆかりの場所が残っており、キューバを訪れる旅の入り口に向いた一冊です。

『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』ジュノ・ディアス|ドミニカ共和国

アメリカ・ニュージャージー州で暮らすドミニカ系の青年オスカーは、SFとアニメを愛する太ったオタクで、恋が実ったことがありません。彼の不器用な人生を軸に、母や祖父の世代がドミニカ共和国のトルヒーヨ独裁政権下で経験した過酷な歴史が明かされていきます。作者はドミニカ共和国出身で、ピュリツァー賞を受賞しました。スペイン語混じりの口語や大量の注釈など文体は独特ですが、勢いがあり笑える場面も多い作品です。カリブ海の島国の歴史と、移民として生きる家族の姿を同時に知ることができます。

『ペドロ・パラモ』フアン・ルルフォ|メキシコ

亡き母の言葉に従い、父ペドロ・パラモを探して寂れた村を訪れた男が、死者たちの声に囲まれていく物語です。短い作品ですが、ラテンアメリカ文学に大きな影響を与えました。断片的な構成なので、2回読むと理解が深まります。生者と死者の距離が近いメキシコの死生観がわかり、「死者の日」の時期にメキシコを訪れる旅の前に読むと印象が深まります。

『百年の孤独』ガブリエル・ガルシア=マルケス|コロンビア

架空の村マコンドを舞台に、ブエンディア一族の百年を描いた長編です。不思議な出来事が当たり前のように起こる語りの中に、内戦や外国資本の進出など、ラテンアメリカの歴史が重ねられています。2024年に文庫化され、ドラマ化もされました。似た名前の人物が多いため、家系図を見ながら読むと混乱しにくくなります。中南米の長期旅行でじっくり読みたい一冊です。

『コレラの時代の愛』ガブリエル・ガルシア=マルケス|コロンビア

カリブ海に面した港町を舞台に、若き日に恋した女性を半世紀以上待ち続けた男の物語です。町のモデルの一つはカルタヘナとされています。『百年の孤独』より筋が追いやすく、ガルシア=マルケスの入門としてもおすすめです。カリブ海沿岸の湿った熱気と、植民地時代の面影が残る町の雰囲気が伝わり、カルタヘナ旧市街を歩く前に向いています。

『緑の家』マリオ・バルガス=リョサ|ペルー

ペルー北部の砂漠の町ピウラにある娼館「緑の家」と、アマゾン奥地の密林の村を舞台に、複数の物語が交錯する長編です。時間や語り手が頻繁に入れ替わる構成で、読みごたえは重めです。作者は2010年にノーベル文学賞を受賞しました。砂漠とジャングルという、ペルーの対照的な風土を知りたい文学好きに向いています。

『星の時』クラリッセ・リスペクトル|ブラジル

リオデジャネイロで暮らす、北東部出身の貧しい若い女性マカベーアの短い生涯を、語り手の作家が書きあぐねながら語っていく中編です。作者はブラジル文学を代表する作家の一人です。短い作品ですが語りは独特で、大都市の片隅で生きる人の孤独と、ブラジル国内の地域格差が伝わってきます。

『精霊たちの家』イサベル・アジェンデ|チリ

ある一族の三代にわたる女性たちの人生を、不思議な力や予言を交えながら描いた長編です。国名は明示されませんが、チリと思われる国を舞台に、物語は社会の分断から軍事クーデターへと向かいます。長いものの物語性が高く読み進めやすい作品です。チリの近現代史と家族のつながりの強さがわかり、南米を長く巡る旅に向いています。

『伝奇集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス|アルゼンチン

無限に続く図書館を描いた「バベルの図書館」などを収めた短編集です。ブエノスアイレス出身のボルヘスは、20世紀の世界文学に大きな影響を与えました。1編は短いものの、内容は哲学的で読みごたえがあります。旅行の実用というより、海外文学好きなら一度は手に取りたい定番の一冊で、書店の多いブエノスアイレスを訪れる前にも向いています。

『モーターサイクル南米旅行日記』エルネスト・チェ・ゲバラ|アルゼンチン

医学生だった23歳のゲバラが、友人とおんぼろバイクでアルゼンチンからチリ、ペルーなど南米大陸を縦断した旅の日記です。のちに革命家となる青年が、旅の中で出会った人々の貧しさに目を向けていく過程がわかります。映画化もされています。読みやすく、南米をバックパッカーとして旅する人には特におすすめです。

中東・アフリカの海外文学・小説

旅行先としての情報が少ない地域ほど、小説から得られる背景知識が役立ちます。

日本語訳の点数は限られているため、品切れの場合は図書館や中古販売も活用してください。

地域によって治安情勢が大きく異なるので、渡航を検討する際は外務省の海外安全ホームページで最新情報を確認することが欠かせません。

中東の小説

トルコ、イラン、イラク、レバノン、イスラエル、パレスチナ、エジプトの作品を紹介します。

宗教や歴史の背景を知っておくと理解が深まる地域で、小説やエッセイを通して、ニュースだけでは見えない人々の日常に触れられます。

『わたしの名は赤』オルハン・パムク|トルコ

16世紀末のイスタンブールで、細密画師の殺人事件をめぐって物語が展開する歴史ミステリーです。章ごとに語り手が変わり、人だけでなく絵や色までが語り出す構成が特徴です。作者は2006年にノーベル文学賞を受賞しました。長く読みごたえは重めですが、東西の美意識の違いがわかり、イスタンブールで美術館や宮殿を巡る旅に向いています。

『イスタンブール』オルハン・パムク|トルコ

パムクが自身の少年時代の記憶とともに、イスタンブールという街を描いたエッセイです。かつての帝国の栄光が失われた後の街に漂う「ヒュズン(哀愁)」という感覚が、繰り返し語られます。物語ではないのでどこからでも読めます。小説より先にこちらを読むと街の空気をつかみやすく、初めてのイスタンブール旅行の前に向いています。

『テヘランでロリータを読む』アーザル・ナフィーシー|イラン

イスラム革命後のテヘランで大学を追われた英文学の教授が、教え子の女性たちと自宅で秘密の読書会を開いた日々を振り返る回想録です。西洋の小説を読み合いながら、厳しい規律の中で暮らす女性たちの思いが語られます。革命後のイラン社会の日常がよくわかり、本好きなら読書会の場面にも引き込まれます。

『ペルセポリス』マルジャン・サトラピ|イラン

1979年のイスラム革命とその後のイラン・イラク戦争を、テヘランで少女時代を過ごした作者が描いた自伝的なグラフィックノベル(漫画形式の作品)です。アニメ映画化もされています。絵で読めるため非常に読みやすく、イランの現代史と、そこで暮らす家族の日常を知る入り口として最適です。

『バグダードのフランケンシュタイン』アフマド・サアダーウィー|イラク

米軍侵攻後の2005年、爆弾テロが続くバグダードで、古物商の男が犠牲者たちの遺体の断片を拾い集めて縫い合わせると、その体が動き出し、犠牲者の仇を討つため街をさまよい始める物語です。作者はイラクの作家で、アラブ小説国際賞を受賞しました。奇抜な設定ながら、宗派対立や治安の崩壊の中で暮らす市民の日常が、ときに皮肉なユーモアを交えて描かれます。読みやすさは標準的です。ニュースでは数字でしか伝わらない犠牲の重さを、物語として受け止められる一冊です。

『預言者』カリール・ジブラーン|レバノン

長く異国の町で暮らした預言者アルムスタファが、故郷へ帰る船に乗る前に、町の人々に問われるまま、愛、結婚、子ども、仕事、喜びと悲しみ、死などについて語っていく散文詩集です。作者はレバノン北部の山村ブシャーレの出身で、アメリカへ移住したのちに英語で書きました。1923年の発表以来、世界中で読み継がれています。短い章ごとに独立しているので、旅先で一章ずつ読むのにも向いています。ブシャーレにはジブラーン博物館があります。

『突然ノックの音が』エトガル・ケレット|イスラエル

イスラエルを代表する現代作家による、数ページほどのごく短い物語を集めた短編集です。作家の家に銃を持った男が押し入り「物語を話せ」と迫る表題作をはじめ、とぼけたユーモアと不条理な展開の中に、兵役や紛争が日常の隣にある社会の緊張がにじみます。1編が非常に短く、移動中のすき間時間でも読めます。テルアビブなどの都市で暮らす人々の、ニュースからは見えない感覚に触れられる一冊です。

『ハイファに戻って』ガッサーン・カナファーニー|パレスチナ

1948年の戦乱の中、港町ハイファから追われたパレスチナ人の夫婦が、20年後の1967年、ようやく訪れることができるようになった故郷の家を訪ねる中編です。そこには、混乱の中で置き去りにせざるを得なかった赤ん坊の息子が、別の家族のもとでイスラエル人として育っていました。作者はパレスチナを代表する作家で、短い作品ながら、故郷とは何か、家族とは何かという問いを突きつけます。日本語訳は、難民の男たちの密入国を描いた『太陽の男たち』と一冊にまとめた文庫で読めます。ニュースで語られることの多い地域の歴史を、一つの家族の物語として知ることができる作品です。

『張り出し窓の街』ナギーブ・マフフーズ|エジプト

第一次世界大戦期、カイロの旧市街で、厳格な商人の父が支配する一家の暮らしを描いた「カイロ三部作」の第1部です。作者はアラブ圏で初めてノーベル文学賞を受賞しました。長い作品ですが、家族の日常が丁寧に描かれ、当時のカイロの人々の信仰や家族観がよくわかります。ハーン・ハリーリ周辺の旧市街を歩く旅の前に向いています。

『ナイルに死す』アガサ・クリスティー|エジプト

エジプトのナイル川を進む観光客船で、富豪の新婚の妻が殺され、乗り合わせた名探偵ポアロが謎を解くミステリーです。クリスティー自身もエジプトを旅しており、1930年代の優雅な船旅の様子や、遺跡の風景が描かれます。読みやすく、ナイル川クルーズやルクソール、アスワンを訪れる旅のお供にぴったりです。

アフリカの小説

アルジェリア、モロッコ、ナイジェリア、ガーナ、コンゴ民主共和国、タンザニア、ケニア、ボツワナ、南アフリカの作品を紹介します。広い大陸の中で、国ごとに歴史も文化も大きく異なります。植民地支配の時代と、独立後の社会の両方を描いた作品を読むと、理解が立体的になります。

『異邦人』アルベール・カミュ|アルジェリア

フランス統治下のアルジェで暮らす青年ムルソーが、母の死の翌日も普段どおりに過ごし、やがて海辺で殺人を犯す物語です。作者はアルジェリアで生まれ育ち、ノーベル文学賞を受賞しています。短く簡潔な文章で読みやすく、地中海の強い陽射しと植民地時代のアルジェの空気が伝わってきます。北アフリカの地中海沿岸を訪れる旅の前に向いています。

『アルケミスト 夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ|モロッコ

スペイン・アンダルシアの羊飼いの少年が、夢で見た宝を探しに、モロッコのタンジェからサハラ砂漠を越えてエジプトのピラミッドを目指す寓話的な物語です。作者はブラジル出身で、世界的なベストセラーになりました。その国の文化を描いた作品というより、旅そのものをテーマにした一冊です。短く平易で、旅に出る前の気持ちを整えたいときにも向いています。

『崩れゆく絆』チヌア・アチェベ|ナイジェリア

19世紀末、現在のナイジェリア東部に暮らすイボ人の村で、勇猛な男オコンクォの人生と、白人宣教師や植民地政府の到来による村の変化を描いた作品です。アフリカ文学の古典として世界中で読まれています。分量は多くなく、植民地化以前のアフリカ社会の仕組みとその変化がわかるので、アフリカの歴史の基本を知りたい人に向いています。

『アメリカーナ』チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ|ナイジェリア

ナイジェリアで育った女性がアメリカに留学し、やがて帰国するまでを描いた長編です。現代のラゴスの暮らしと、海外で初めて「黒人」として見られる経験が率直に描かれます。長めですが現代的な文体で読み進めやすい作品です。現代ナイジェリアの若者の価値観がわかるだけでなく、自分が旅先で「外国人」として見られる感覚を考えるきっかけにもなります。

『奇跡の大地』ヤア・ジャシ|ガーナ

18世紀の黄金海岸(現在のガーナ)で、互いの存在を知らずに生まれた異母姉妹の運命から始まる長編です。一人は英国人の総督と結婚して海辺の城で暮らし、もう一人はその同じ城の地下牢に囚われ、奴隷としてアメリカへ送られます。物語は二人の子孫を一章ずつ交互にたどり、約300年にわたるガーナとアメリカの歴史を描き出します。作者はガーナ生まれでアメリカ育ちです。章ごとに主人公が変わるので読み進めやすい構成です。舞台のモデルとなったケープコースト城は世界遺産に登録されており、訪れる前に読むと地下牢の重みが実感できます。

『闇の奥』ジョゼフ・コンラッド|コンゴ民主共和国

19世紀末、ベルギー国王の私領だったコンゴで、象牙を扱う会社の船長となった英国人マーロウが、奥地の出張所で消息を絶った社員クルツを探して大河をさかのぼる中編です。映画『地獄の黙示録』の原案としても知られています。短い作品ですが語りは重層的で、植民地支配の暴力が描かれる一方、アフリカの人々の描き方には、『崩れゆく絆』の作者アチェベなどから強い批判も寄せられてきました。その議論を知ったうえで読むと、ヨーロッパがアフリカをどう見てきたかを考える手がかりになります。コンゴ民主共和国への渡航は、外務省の危険情報を必ず確認してください。

『楽園』アブドゥルラザク・グルナ|タンザニア

20世紀初めの東アフリカで、父の借金のかたに商人に引き取られた少年ユスフが、内陸へ向かう隊商の旅に同行する物語です。作者はザンジバル出身で、2021年にノーベル文学賞を受賞しました。インド洋の交易で結ばれた沿岸部の多様な民族や宗教、植民地化前夜の空気が伝わってきます。ザンジバル島など東アフリカ沿岸を訪れる旅に向いています。

『アフリカの日々』イサク・ディネセン|ケニア

デンマーク出身の作者が、20世紀初めにナイロビ近郊でコーヒー農園を営んだ17年間を振り返った回想録です。広大な高原の風景や野生動物、農園で働く人々との関わりが、ゆったりとした文章で描かれます。植民地時代の入植者の視点で書かれている点を意識して読むと、サファリ旅行の前に、土地と人の歴史を知る手がかりになります。

『No.1レディーズ探偵社、本日開業』アレグザンダー・マコール・スミス|ボツワナ

亡き父の遺産で、ボツワナの首都ハボローネに国内初の女性探偵社を開いたプレシャス・ラモツエが、浮気調査や行方不明者探しなど、身近な依頼を持ち前の観察眼で解決していくミステリーです。作者は南部アフリカで育ち、ボツワナの大学で教えた経験を持ちます。凶悪な事件はほとんど起こらず、穏やかなユーモアの中に、ボツワナの人々の礼儀や家族の絆、乾いた大地の風景が描かれます。シリーズ化されており、気軽に読めるアフリカ文学の入り口に向いています。日本語訳は入手しにくい巻もあるため、図書館も活用してください。

『恥辱』J・M・クッツェー|南アフリカ

ケープタウンの大学を追われた中年の教授が、東ケープ州の農場で暮らす娘のもとに身を寄せ、そこで暴力的な事件に巻き込まれる物語です。ブッカー賞受賞作で、作者は2003年にノーベル文学賞を受賞しました。分量は多くないものの内容は重く、アパルトヘイト撤廃後の南アフリカ社会が抱える緊張がわかります。

『自由への長い道』ネルソン・マンデラ|南アフリカ

アパルトヘイト(人種隔離政策)と闘い、27年間の獄中生活を経て大統領となったマンデラの自伝です。少年時代から反アパルトヘイト運動、ロベン島での服役、釈放後までが率直に語られます。長い作品ですが、南アフリカの歴史を知るうえで欠かせない一冊です。ケープタウン沖のロベン島は世界遺産になっており、訪れる前に読むと見学の意味が大きく変わります。

オセアニアの海外文学・小説

雄大な自然のイメージが強い地域ですが、先住民の歴史や文化、戦争をめぐる日本との関わりを描いた作品もあります。

オセアニア(大洋州)の小説

オーストラリア、ニュージーランドの作品を紹介します。都市部からは見えにくい、内陸の大地や先住民の文化に触れられる作品を選びました。

『ピクニック・アット・ハンギングロック』ジョーン・リンジー|オーストラリア

1900年のバレンタインデー、メルボルン近郊の岩山へピクニックに出かけた女学校の生徒と教師が、忽然と姿を消す物語です。実話のように語られますが創作で、ピーター・ウィアー監督の映画でも知られています。読みやすく、オーストラリアの自然が持つ得体の知れない存在感が伝わってきます。舞台の岩山は実在し、メルボルンからの日帰り旅行先としても知られています。

『奥のほそ道』リチャード・フラナガン|オーストラリア

第二次世界大戦中、日本軍の捕虜として泰緬鉄道の建設に駆り出されたオーストラリア人軍医の生涯を描いた長編で、2014年にブッカー賞を受賞しました。タイトルは松尾芭蕉の紀行文に由来します。日本人にとっては重い内容ですが、オーストラリアで戦争がどのように記憶されているかを知るうえで大切な一冊です。

『ソングライン』ブルース・チャトウィン|オーストラリア

英国の紀行作家チャトウィンが、オーストラリア中央部の砂漠を訪れ、先住民アボリジニが歌によって大地の道筋を記憶する「ソングライン」を探っていく作品です。紀行文と小説の中間のような形で、旅先でのメモや引用が断章として挟まれます。アリススプリングスなど内陸部を訪れる旅や、旅と移動について考えたい人に向いています。

『クジラの島の少女』ウィティ・イヒマエラ|ニュージーランド

ニュージーランド北島の東海岸にあるマオリの村を舞台に、クジラに乗ってやって来たという祖先の伝説を受け継ぐ一族の物語です。跡継ぎとなる男の子を望む族長の祖父に認められないまま、ひ孫の少女カフは、クジラと不思議な絆で結ばれていきます。作者はマオリ出身の作家で、映画『クジラの島の少女』の原作として知られています。短く読みやすく、マオリの人々の伝統や、自然と祖先への敬意が伝わってきます。ニュージーランドでマオリ文化に触れる施設を訪れる前に読むと、理解が深まる一冊です。日本語訳は入手しにくい場合があるため、図書館も活用してください。

海外文学を持ち歩くならKindle Paperwhiteも便利

海外文学は長編やシリーズものが多く、紙の本で何冊も持ち歩くと荷物が重くなります。

電子書籍リーダーのKindle Paperwhiteなら、何冊もの本を一台にまとめて持ち運べます。

紙に近い表示でスマートフォンより目が疲れにくく、軽量で充電の持ちもよいため、普段の読書用としても、長距離フライトや長期旅行のお供としても使いやすい端末です。

ただし、海外文学は電子書籍版が出ていない作品もあります。

読みたい作品が電子化されているか、読み放題サービスの対象になっているかは、購入前にストアで確認してください。

私の経験だと、欧米の旅行者はKindle Paperwhiteの所有率が高いです。

まとめ

海外文学は、その国の人が共有している歴史や暮らしの感覚を、物語を通して伝えてくれます。

  • 初めての国や地域なら、短編集や短めの作品から入ると読み切りやすい
  • 歴史を背景にした作品は、記念館や史跡を訪れる前に読むと見学の意味が深まる
  • 翻訳書は品切れのこともあるため、電子書籍版や文庫版、図書館もあわせて確認する
  • 治安や入国条件などの実務情報は外務省などの公式情報で確認する

旅の予定があるなら行き先の国から、予定がなければ気になる地域から、まず1冊選んでみてください。

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この記事を書いた人

旅のおともの運営者です。2年ほどの海外ノマド経験あり。約20か国で暮らすように旅をしてきました。自身の経験をもとに、海外旅行・長期旅行に役立つ情報を発信しています。

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